審判に泣かされ、シュートを滝のように撃たれ、中村俊輔にふりまわされても、セレッソは我慢強く90分間戦った。横浜FMのフィニッシュの雑さに救われたとはいえ、この展開でスコアレスドローは大きい。
スタメンは「クルピ定食」と揶揄されるほど不動のメンバー。ただしシステムは京都戦のような4-3-3ではなく、それまでの3-4-3だった。恐らくレヴィー・クルピは相手のトップに対してつねに一人多いディフェンダーを置いておきたかったのだろう。アウェーゲーム、まず守備からという意識もあったはずだ。
試合開始時
しかしこのシステムではボランチのラインが非常に弱く、相手のコンダクターに対してプレスがかけられない。3バック(ウイングも引いて実質5バック)の個々の強さで相手の攻撃を何とかはね返すのが精一杯で、ミドルシュートはほぼ打たれ放題。キム・ジンヒョンが素晴らしいセーブを見せた清水のミドル以外は正確性と威力に乏しいシュートばかりだったが、決して心地のよい状態ではない。
攻撃のタクトを振るうマルチネスも含め、殆どのプレーヤーが自陣に引きこもっている状態なので、当然前の3人は厳しいシチュエーションから攻撃を開始しなければいけなかった。形らしい形になったのは前半20分過ぎからで、それも乾のキーパーの頭の上を狙ったミドル(枠外)とバックパスをさらったアドリアーノのプレーくらい、僅かばかりの反撃、その殆どを中澤、栗原、小椋、狩野の守備ブロックに封じられてしまっていた。
悪いことは重なるもので、前半30分頃からマルチネスの動きがおかしくなる。足を痛めたとのこと。短いダッシュや軽いランは出来るのだが、ボランチらしい運動量や激しいプレーは期待できない状態だった。異変を感知したレヴィー・クルピはこの時点で家長にアップを命じている。
ところがそのマルチネスが相手選手に対してスパイクの裏を見せたスライディングを行ったとして、前半終了間際一発退場になってしまう。もしベストコンディションであったなら他のプレーを選択していただろうが、スライディングはあの時のマルチネスが出来る精一杯のプレーだった。審判を責めることもできるが、仕方が無い結果だったとも言える。とにかくセレッソは残りの45分プラスアディショナルタイムを10人でプレーしなくてはいけなくなった。
後半、攻め手をこれ以上減らせば前線でのプレスが破綻すると踏んだレヴィー・クルピは3バックを4バックに変更する策を選択する。羽田を一列上げてアマラウとコンビを組ませ、高橋、尾亦はディフェンスラインに、前線の3枚はがむしゃらにボールを追い、一発にかける。苦渋の決断だったが、この時点でのベストチョイスだったと信じる。
後半開始時
結果論ではあるが、この策はうまくはまった。マルチネス、アマラウのコンビに比べて羽田、アマラウのコンビは守備力の面で上をいっていた。サイドバックが必要以上に上がることを自重したため、結果として6枚の堅い守備陣を敷くことになった。一人多く、攻撃的な横浜FMに一方的に攻められてはいたが、あわや失点というシーンは殆ど作られていなかった。点を奪うイメージは浮かばなかったが、失点する恐怖も少ないセレッソらしからぬ試合運び。横浜FM木村監督がターゲットのバスティアニーニ、ドリブラーの斎藤を入れても個に強い茂庭、上本、そしてキム・ジンヒョンがよく耐えてくれた。
業を煮やした木村監督は後半36分、コンディションの不調から先発を外れていた中村俊輔を投入、勝負に出た。それを待っていたレヴィー・クルピも動く。乾を下げ、藤本を入れてシステムを5-2-1-1に。矢継ぎ早にチェイシングに奔走していたアドリアーノを下げてボールキープに長けた家長をトップに、香川とのコンビに前線を託す。
後半38分
後半41分
後半42分にはこちらも疲労困憊のキャプテン羽田に代えて黒木。キャラクターの特性とすれば下がるべきはアマラウだったかもしれないが、このあたりの理由は不明。(アマラウの名誉の為に言うならば今日の出来自体はそれ程悪かったわけではない。あくまで守備重視運動量重視でいくならアマラウということ)
後半42分
後半退場者と疲労からスペースが生まれ、中村を捕まえることは容易ではなかった。ただ横浜FMはフィニッシュの精度を最後まで欠いたままだった。ファーサイドに張ったフリーの選手に入れられ肝を冷やすシーンが見られたが、シュートは枠をとらえず空高くに飛んでいった。アデイショナルタイム4分も上手に消化し、この苦境にあって貴重な勝ち点1を手にした。
試合をするからには全てのゲームで得点を、勝利を求めるのは当然の姿勢だと言える。ただし現場レベルにおいてその時々で自分たちに出来るベストを尽くす、最低限の結果を残すというリアリストの目を持たなくてはリーグ戦は戦えない。その意味において今日の試合は「良い試合」と評価できる。マルチネスの怪我の具合はどうか?4-3-3でいくら結果を残したとしても、相手が2トップの際は常に3-6-1がファーストチョイスなのか?心配と疑問は尽きないが、とりあえず掴み取った勝ち点を喜び、文を結ぶ。