カリカリと小さな音を立てて、HDDがデータを後輩に手渡ししている。それをボーっと見つめていた。
人間も、こんな風に情報や感情を簡単に移したり捨てたりできればいいのに。一度頭に記憶素子を埋め込んでしまえば、後は簡単。ネットに流れている情報をダウンロードすれば数分で「教育」は終わる。残りの時間を全て人格形成に費やせばいい。友達と遊んでもいい(もちろんオンラインでも、オフラインでも)、将来の夢のために更なる情報を落とし込むのもアリだろう。仕事だってベットに寝転びながらネットにつながっていればOK、公私の境はあいまいになるけれど、満員電車の苦痛からは開放される。ネット環境さえ整えばどこにいてもいいわけだから、過疎だとか人口過密というのも多少緩和されるだろう。
それから、恋愛だって、もっとずっとシンプルで、間違いが無いようになる。お互いがお互いをどれ程想っているのか、すぐにわかるんだから。今結婚した夫婦の3割が離婚しているらしいけども、もう少し減るんじゃないかな。むしろ変説がわかるんだから、増えちゃうか。どうなんだろう。
思い出も、選り好みが出来る。辛いこと悲しいこと忘れたいこと、まとめてゴミ箱にいれて「ガサガサ」ってしたい。オレはそれが出来ないし、それがもとで人を傷つけてばかりだし、いい加減いい加減にしたい。
今はどれだけPC上のデータを消したって、記憶が消えない。多分一生残るだろう。何の役にも立たない記憶のくせに、夢の中にまで出てくる。反吐が出るようなあの時のこと、どうしたらいいかまだ迷ったままだ。なんでウソなんてついたんだろう…。