前半23分 石原 克哉(甲府)
後半4分 オウンゴ−ル(C大阪)
後半8分 香川 真司(C大阪)
後半43分 美尾 敦(甲府)
後半44分 羽田 憲司(C大阪)
十中八九負け試合だった。守備は最初から最後までボロボロで、ついぞ修正できなかった。それでも引き分けた。つい20時間程前までバンコクで青いユニフォームを着ていたはずの少年が、長居に帰ってきた、ただそれだけでチームは生まれ変わった。
先発の11人を見ただけで、セレッソのチーム状態がいかに異常かが判る。アンカーとして機能していた羽田をDFラインに下げなければいけない、チームにフィットしているか疑問符がつく青山をトリプルボランチの一角に入れなければいけない、攻撃への第一歩となるアレーを下げて使わなければいけない。前田、江添、阪田、次々と離脱していくセンターバック。この体を取り繕うのにどれだけの苦労があっただろうか。
このパッチ処理だらけの守備陣が、試合開始早々崩壊し始める。山下、柳沢の右サイドが不味い。上がりたい柳沢、カバーで精一杯の山下、このギャップをよく使われていた。空中戦に関しては絶対の強さを持っている山下だが、ラインコントロールに関しては苦しかった。前半途中からは羽田と山下の位置を入れ替える緊急手術。甲府もよく知ったもので水戸、徳島同様に高めから積極的なプレッシングをしかけ、ボランチから後ろの選手相手でもお構い無しで詰めてきた。
ただでさえ即興で作った陣容であるから、このように攻め込まれると辛い。守備が安定しなくては柳沢、尾亦も本来の力を出せない。尾亦に関しては久々のゲームという事もあってか、前半は大人しいものだった。
前半の2失点は、当然の結果と受け止める。ボランチがボランチではなく(アレーのアンカーはもう見たくない!)ラインがラインではないのだから、攻撃を止める事など出来ない。むしろ、よくも2失点で済んだという印象だ。そう、2失点で済んだ、これが大きかった。
ハーフタイムになると、いつも控えの選手がビブスを着てピッチに出てくるのだが、4人しかいない。仲間とまさかなと話していたのだが、望遠レンズで様子を見ると、足が細い、黒髪の、華奢な少年がいない。確かに流れを変えるなら香川しかいない、だが前日80分以上酷暑の中で走り回った人間が機能するのか。期待と不安を3:7くらいの割合で持って、後半を待った。
しかしこの後半がこれほどドラマチックになろうとは思いもしなかった。プレリュードは甲府の凡ミスからだった。なんでもないバックパスがオウンゴールに変わり、1点差。これでほんの僅か「いける」という気持ちが出てきた。
そしてもう一つの誤算は、香川が思っていたよりもずっとタフなプレーヤーだったということ。勝ちに見放されている甲府がばたつき出したのを彼は見逃さなかった。後半8分、今度はこちらが甲府の守備の穴を突き、香川がキーパーと1対1に。これをループでいなす冷静さは粋などというものではなく、もはや尋常ではない。あっという間の同点劇で1万を超えた観衆が燃えた。
これで流れが変わり始めた。欠けていた大きな歯車が戻り、セレッソの攻撃が轟音をあげて機能し始めたのだ。香川がボールを持つと、小松が、古橋が、ジェルマーノが、尾亦が、スペースを突かんと駆け出す。足元にばかりボールを要求していた柿谷も香川とのコンビネーションは抜群で、右サイドの攻撃まで活性化した(守備時にもう少し帰陣が速ければもっとよかったのだが…)
ただし守備の不安定さは相変わらずで、特にアンカー役だったアレーの酷さが目立ってきた。攻撃に出るにもテンポが遅く、守備に回るも戻りが遅い。後半の中盤は切れ味の鋭い攻撃に酔いながら、守備の際にはキモを冷やす展開に。70分以降はノーガードの打ち合いといった様相。柿谷のシュートがポストを叩き、甲府の至近距離からのシュートはバーに嫌われた。
そんな心臓に悪い展開が、終盤になるとよりビビットになってくる。そして、この均衡は試合終了間際、甲府の流れるようなカウンターによって崩された。うなだれるセレッソイレブン。沈黙するスタジアム。
だが時間は、もうほんの僅かだが残っていた。そして起死回生のゴールか生まれる。コーナーキックに飛び込んだのは、今日散々辛酸を舐めさせられた羽田だった。体ごと、心ごと、ボールに食らいつくと、ボールはゴールマウスに吸い込まれていった。今度うなだれるのは甲府イレブンの番だ。
贅沢を言うなら、ラストのコーナーキックが観てみたかった。主審山西氏は厳密に(悪く言うなら杓子定規に)タイムマネジメントをしていたようだが、あまり良い気分ではない。
今日の試合、香川がいるといないとではチームのクオリティに雲泥の差があった。しかしこれを是とするか否とするかは問題ではない。セレッソに求められているのは昇格という結果だけで、方法は問われていないからだ。ならば、今はこのチームで勝つことのみを視野にいれよう。勿論それが香川という10代の少年にとって如何に残酷なことか、理解したうえで…。