西澤、ゼ・カルロスの出場停止が明け、今の時点でのベストメンバーが揃った。
二人とも休養十分といった様子で、特にゼ・カルロスは野に放たれた猟犬が如く左サイドを疾走する。
ところが先制は広島。前半早々の一本目のコーナーキックを森崎和幸にバックヘッドでそらされゴール。狙っていたのなら素晴らしいゴールだし、コースを変えようとしていただけだとしてもファインプレー。
開始8分で追う立場になったセレッソに、さらに試練が待っていた。左サイドからペナルティエリアに侵入、グラウンダーのクロスを入れたゼ・カルロスにジニーニョがタックル、そのままゼ・カルロスが負傷退場してしまった。
ジニーニョはこの後も西澤に体当たりを食らわせたりとダーティーなプレーを続け、しかも主審はそれにカード一枚出さなかった。
チーム事情なり、個人の力量なり、疲労なり、弁解する余地が無いわけではない。しかしそれを二度三度と繰り返している選手に対しては普通に非難したい。
セレッソで言えばブルーノやファビーニョ、前田、下村といった面々は、決して相手を「壊す」ようなプレーでボールを奪ったりしない。もちろんカードをもらう時も有る(下村に関してはあまりに意義申し立ての類が多いのが残念なのだけれど)、しかし最低限のスポーツマンシップを持ってプレーをしている。それが今日のジニーニョには感じられなかった。
結局ゼ・カルロスの位置には徳重が緊急投入された。
22min
ここからの展開は一進一退。両者が意図したチーム戦術でゴールに迫る。
広島は前田俊介と佐藤寿人のスピードで、前がかりになったセレッソの裏を狙う。二人とも単純にスピード勝負をするだけではなく、キチンとラインのギャップやサイドのスペースを突いていた為対処に非常に苦慮していた。リ・ハンジェのスルーパスを前田が受けて一対一の場面も有ったが、ここは吉田が落ち着いて対応。
対するセレッソはいつものコツコツと長短のパスを繋ぎ、サイドを広く使う攻めが見られない。徳重の左サイドは古橋、柳本との関係作りに暫くの時間を要したし、何より久しぶりに先制点を許した事でチーム全体に焦りの色が見て取れた。広島がそれを見越した上で前の二人にある程度攻撃を任せて守備に人数をかけていたことも有り、苦戦する。それでもいくつかのチャンスを作って見せたのだから、驚く。
そしてこの構図のまま終了するかと思われた前半ロスタイムに、広島が一番恐れていたであろうミスが生まれた。
古橋が右サイドにまで回りこんでセンタリング、これを森島がヘッドであわせる。ところがこれはキーパー佐藤の守備範囲。
普段どおりなら何気なくセーブされていたであろうこの場面、しかしこのJ初スタメンの若いゴールキーパーは、僅かにボールをジャッグルしてしまう。西澤が素早く詰めて同点に戻した。ファインゴールでのリードをミスでかき消された広島の焦りと、連勝を続けるセレッソの余裕が、精神的優位を逆転させる。
後半のセレッソは全てが上手くいっていたわけではなかったが、前半のような焦燥感は無かった。キープすべきところはキープ、スペースを見つければそこにボールを回していく。守備も前半よりばたつかなくなった(それでも前田俊介は脅威で有り続けた。運動量を考えると交代は止む無しかも知れないが、下がった時は安堵した)
そして後半20分に、この優位を決定付ける一撃が生まれる。ファビーニョの正確な右クロスがゴール前に、それにあわせたのは僅か168pの森島。180pオーバーの巨人達の間をすり抜け、ボールをゴール左隅に叩き込んだ。逆転。
こうなるといつものパターン。堅実に、確実に相手の攻め手を読み、硬い守備陣を引く。ボールが保持できれば手数をかけずに速攻。時間稼ぎもしたたかに。
ところがここでもさらにアクシデント。今度は守備の要人前田。相手との競り合いの際に左足を痛めてプレーが不可能な状態になった。画面で見る限りは痛みに顔を強張らせるなどという様子は見られなかったが、それが逆に不安。
交代はベンチで唯一の守備的選手だった藤本。前回に続き本業ではないストッパーでの起用。しかも広島はガウボンら高さの有るプレーヤーを投入し、ロングボールと空中戦に活路を見出そうとしていただけに、試合がわからなくなってきた。
73min
結果論で言えば、勝ち慣れたセレッソのしたたかさが相手の攻撃を封じたのだが、前田→藤本の交代はその堅実さを僅かばかり下げていた。これは別に藤本が悪いわけではないのだが、強い個が抜けた穴をチームの総合力で補う限界が近づいているように感じたシーンだった。
小林監督の最後の、そして唯一戦術的な交代は森島に代えて宮原。前線の活性化によって後の負担を軽減する狙いが有ったものと解釈している。
82min
宮原は急激にチームとフィットして来ている。試合毎に新しいコンビネーションやプレーが生まれてくる。もちろん押しも押されもせぬ主力というわけではないが、チームに欠かせない存在になりつつある。
タイムアップの瞬間は、この乱戦のラストシーンとしてはあまりにもあっけないものだった。着実な試合運びが板についたセレッソなぞ去年の今頃は予想もつかなかったが、実際そこにいる彼等は実に手堅く試合をまとめ、相手を確実に封じている。今日のような試合でさえ、だ。
これで首位とは勝ち点差5。次節の鹿島戦はガンバへの挑戦権を賭けた死闘になるだろう。しかしこの「当たり前の事を当たり前にこなす」姿勢が変わらなければ、リーグ戦制覇も十分に有り得る。ゼ・カルロスと前田の怪我の程度は心配だが、今はただ軽症であると信じたい。